お昼休みが終わり、眠気漂う午後の時間に突然電話が鳴った。
司法書士会から、私宛にだった。 なんだろう、ドキドキして電話を手にとる。
「お電話変わりました司法書士の神咲です。」
「先ほど、相続放棄をしたいと仰っているお客様からお電話があり、調べてみたところ、お客様のご自宅から先生の事務所が立地的にも近かったので、ご対応お願いできないかと思い、お電話しました。」
「対応の可否につきましては、お話を伺ってからになりますが、お話を聞くことは可能です。」
「今から、お客様伺いたいとのことなのですが、ご都合いかがですか」
「えっ今からですか?慌てて予定を確認する。」
「大丈夫です。お待ちしております。」
一気に目が覚めた。
兄に報告すると、兄も同席するとのこと。
それからしばらくしてお客様がいらっしゃった。
75才くらいだろうか。とても優しそうな女性だ。
一通り挨拶をした後、話を伺う。とても緊張している様子だった。緊張をほぐし、話しやすい雰囲気を作るのはとても大切だ。兄は、上手にそれができるのだが、私は、まだまだだ。
「私は、桜木と申します。つい先日、税務署からこのような手紙がきまして」
「拝見させて頂きます」といって兄が封筒を確認する。私は、書記役だ。
「封筒のあて名は、「桜木大二郎」と書かれていた」
「失礼ですが、大二郎様とは、旦那さんですか」
「はい。主人あてに、税務署から書類が届きました。書類を見ると、主人のお兄さんが亡くなって、―主人のお兄さんは、独身です―。要するにお兄さんの固定資産税の支払い通知書ですよね?相続人である主人に払えと。」
「おそらく、相続人代表者を選ぶか、相続放棄をするか、とういようなことが書かれている書類ではありませんか。」と兄が尋ねる。
「そうなんです。主人は、4人兄弟でして亡くなった兄を除けば他に姉妹2人がいます。他の姉妹たちにも同じような手紙がいってるようで、主人の妹は、和歌山でして、もうそちらの司法書士さんに相続放棄の手続きを依頼しているといってました。主人の姉にも確認したところ、姉は、もう面倒だから何もしたくないと、放置しているようです。相続放棄するなら一緒にと声をかけたのですが、面倒のようで。主人は、相続放棄を選択したいと。」
「放棄するのは、ご主人様ですが、そのご主人様のご意思をまず確認したいと思いますが」
「そうですよね。主人は、体調を崩していて病院に入っております。ですから、私が主人の代わりに相談に来ました。」
つづく