お客様が帰られたあと兄が静かに言う。
「とても事情がありそうなお客さんだった。生活も苦しいのではないかな。おそらく報酬の3万円払うのも彼女にとっては大変な額なのだろう。」
「えっ、そんな風には見えなかったけど…」
「それより、この案件、引き受けられるかな」
「えっ、放棄を望んでいるならお手伝いしたいと思うよ。なんで?」
「それは、私も一緒。だけど、ご本人はおそらく80才近いかも。」
りりりりりりり~ん
桜木さんからだった。
「病院の方には、連絡しました。主人には、主治医の先生から伝えてくれるとの事です。」
「早いな。」と兄。
あと、10日ほどしかないから焦っているのだろう。
兄が早速、セントラル病院に電話し熊木先生と話す。
「司法書士の神咲と申します。桜木さんの件なのですが」
「えー。お聞きしております。」
「桜木さんとお会いしたいと思いますが、面会可能でしょうか」
「えー。問題ありません」
「それと、桜木さんは、意思能力はありますでしょうか。認知症などの症状はどうでしょう」
「桜木さんしっかりされてますよ。全く問題ありません。」
「あっそうですか。近日中にお伺いします。」
「はい。了解しました。」
そっか。お兄さんは、桜木さんの意思能力が心配だったんだ。全然気づかなかった。
奥様が、旦那さんが放棄したいと言っていると言っていたことで、認知症などの可能性があることが思考から欠如してしまった。
兄は、よく、お客様とお話をしながらいろんなことを頭で巡らせているという。もし、相続放棄できます。なんて言ってしまって、実際、意思能力がなくてできないことになったら、お客様をがっかりさせることになる。
2日後(1/20)、兄が病院へ行くという。私は、その日は都合つかず、報告をきくことになった。
つづく