その日の17時過ぎ、桜木さんの奥さんがお礼だといってやってきた。
兄と私が同席する。
「無事、裁判所へ書類お送りしました。書留で送ったので、明日には、届くと思います。」
「本当にありがとうございました。無理なお願い致しまして。それで、おいくらでしょう。」
「すでに、旦那さんからいただいてますよ。」
「えっ、いくらですか?」
「3万円」
「それじゃー足りないでしょう。不足分払います。」
「十分です。」と兄が答える。
「申し訳ない。本当にありがとうございます。」と桜木さん
「主人は、その悪い癖がございまして、そのせいで、仕事を転々としてました。主人がちょくちょく仕事を変えるものですから、生活も不安定で。気に食わないことがあると、家族には八つ当たりするものですから、子どもたちは、全く寄り付きもしませんで。」
「大変さしでがましいようですが」と兄が、書類を見せながら説明する。
生活保護の受給申請書のようだ。
「市役所に、申請してみたはいかがでしょうか。入院費、大変なのでは。」
「お気持ちだけでありがとうございます。もう疲れてしまったんです。以前、市役所にその件で問い合わせしたところ、難しいようなことを言われ、それ以外にもいろいろ申請したのですが、全部断られて、もう疲れてしまって。私も歳ですし。なんとか贅沢しなければやっていけます。」
「そうですか。わかりました。何か、私たちができることがあればいつでもご相談ください。」
「本当にありがとうござます。」
桜木さんが帰宅した。
今日は、なんだか疲れてしまい、早々に帰り支度をしていると、兄がやってきた。
「今日の報告は?」
「うん。熊木先生と、桜木さんの病室に行ったよ。熊木先生の名前「圭」って言うんだって。」
「うん。知っている。」
「なんだー。じゃーこれは?熊木先生には妹さんがいて、名前がなんと「ワカ」って言うんだって。字は、私の和に、香る。」
「えーそれは知らなかった。」
「すごい偶然だよね。」
「病室で、再度、桜木さんには、意思確認したよ。無事、署名押印もらえた」
「うん。よくがんばった。 で、報告それだけ?」
「うん。それだけ。以上」
「うそ。隠してる。何があった?」
「大丈夫。何もない。」そう。何もなかった。腕をつかまれただけだ。
「私には、分かる。ちゃんと説明して。和花は、顔に出る」
つづく