「司法書士の神咲です。来週の成田の土地の決済で、売主の小滝さんの登記済証を拝見させてい
ただきたいと思いまして」
「あー私の方で確認しましたから大丈夫ですよ。」と仲介さん
「えっ、いや、あのせめてファックスだけでも頂きたく当方でも事前確認したいのですが」
先方で仲介さんを呼んでいる声が聞こえる。忙しそうだ。
「(あーすぐ行くよー。)あーすみません。確認しましたから大丈夫ですよ。
そういうことで、当日お願いします。」
「ガチャ」
あー自分の目で確認がとれない。直接売主さんと連絡とってはいけないという暗黙のルールを恨
めしく思う。
沈んだ気持ちで兄に、仲介さんとのやりとりを説明し、相談する。
「謄本みせて」
「はい。これです。」
「分筆されているわけでもないし、仲介さんだってプロ。登記済証の表示を見誤ることもないで
しょ。大丈夫でしょ。本当なら、確認すべきだし、確認したいよね。でも、仲介さんの顔を潰さ
ないようにすることも大事。難しいよね。司法書士って苦しい立場だよね。電話の応対の仕方と
か話し方で、この仲介さんなら大丈夫だと思ったから、この仕事を和花に頼んだよ。当日は、事
務所で会議をしているけど、何かあれば電話してきていいから。
「はい。ありがとうございます」
だいぶ気が楽にはなったけど、心の片隅にある不安はぬぐえない。
それでも、気を取り直して決済にむけて着々と準備をする。
決済前日
「和花知ってる?決済が終了したら、『おめでとうございます』って言うんだよ。」
「えっそうなの?誰が?」
「仲介さんが」
「へーそれで私は、その後なんて言えばいいのかなぁ」
「こうだよ。バンザーイ。バンザーイってやるの。」兄は、大きく両腕を空に向かって伸ばして
いる。
「えっうそでしょ。ねー冗談だよね?」
事務所のスタッフのみんながクスクス笑っていた。
その日の帰り、「さぁ明日は頑張ろう!決済デビューだ。何事もありませんように。」
一抹の不安を残しながら、事務所をあとにした。
つづく