時間が過ぎているとはいえ、相続登記のご依頼をいただくご相談者は、悲しみのふちにある方が多い。しかし、中山さんは、おしゃれな身なりをして、とてもご主人が亡くなったように思えない。本当に、してあげられる精一杯をしたのだろう。
「主人が亡くなった時のように、私も逝きたいわー。娘はそうしてくれるかしら?」と中山さんは、くすっと笑う。
「きっと、娘さんは、そうしてくれます。お母さんを見てますから。」
「そうだといいけど(笑)先生、ごめんなさい。寄り道話。時間がなくなってしまうわね」
「あっはい。えーとどこまで話しましたっけ」涙を拭きながら、本題に入る。
「えーと、そう戸籍。まず、ご主人の戸籍を集めるんです。相続人を確定させるために、ご主人の生まれたときからお亡くなりになるまでの戸籍を」
「えー。知ってますよ。事前準備をしたと言ったでしょ。」
「はい。それは、葬儀の事前準備かとお話をしていて思ったのですが、亡くなることを想定して、戸籍も集めたのですか?」
「はい。」といって、戸籍の束を見せてくれた。
「先ほども話したけれど、私の父が亡くなった時にね、戸籍を集めるの大変だったの。だからね、主人の亡くなる1年前かな。まだそのころ主人は、元気だったから、2人で戸籍集めの旅をしたの。こればかりは、もしかしたら私が先に亡くなるかも分からないでしょ?だから、私の戸籍と主人の戸籍。二人の生まれたときから亡くなるまでの戸籍を集める旅。」
「わーそれいいアイディアです」
「楽しかったわ。まず、主人の生まれた鹿児島へ行って、美味しいもの食べて、温泉浸かって、戸籍を取得して、それから私の生まれた広島へ‥‥そんな風に繰り返して、3か月くらいで集まったわ。結婚してからは一緒の戸籍ですしね。」
戸籍を集めることを楽しい旅に置き換えるなんて、考えもしないアイディアだ。死ぬその時の準備のための戸籍取得の旅が、二人の思い出の旅に代わっていく。きっと、中山さんご夫婦の最後の旅だったに違いない。またまた感動で涙が出てくる。
「戸籍拝見しますね。」そこには、完璧なまでに、ご主人の出生から死亡までの戸籍がそろっていた。
「間違いなく、すべて揃っています。」
「戸籍がそろっているのなら、あとは簡単です。」