「あっ、念のためお聞きしますが、旦那さんは、遺言とか残してましたか?」
「いいえ。相続人は、娘と私だけですから。遺言を書くような財産うちにはないですし」
「遺言があるかないかを尋ねたのは、不動産名義の変更にあたり、娘さんと中山さんの間で不動産は、中山さんが取得するという遺産分割協議をしなければなりません。しかし、もし遺言があるなら、旦那さんが作成した遺言が旦那さんのご意思なので、遺言内容が優先するので。」
「あーそうなのですね。遺言があれば、遺産分割協議をしなくていいとうことですね?」
「はい。そうです。中山さんのご家族は、娘さんおひとりなので、遺産を巡って、争うようなことはないのでしょうが、相続人が多数でるご家庭は、遺言を残した方が、手続きがスムーズに進みます。遺産分割協議がなかなか整わなかったりするので」
「そうなんですね。主人は、遺言を残してないので、私は、娘との間で遺産分割協議をして、不動産は、私が取得するというような内容の遺産分割協議書を作成すればいいのですか」
「はい。そうです。娘さんと中山さんの印鑑証明書の印鑑で捺印します。」
中山さんは、一生懸命にメモをとっている。70歳くらいかと思うが、とても利発で、しっかりした方だ。
「他には、どんな書類が必要ですか?」
「はい。奥様の戸籍と娘さんの戸籍。それから、旦那さんがお亡くなりになった際の住民票。除住民票と言います。最後に、奥様の住民票。」
中山さん、一生懸命メモをとっている。
時間の許す限り、登記の申請書の書き方を教えた。
「どうもありがとうございました。時間かかりそうですがやってみます。もし、できなかったら、先生にご依頼していいですか」
「もちろんです。その時は、ご依頼お待ちしております。」
「先生、お時間使って申し訳ないのですが、最後にこれ、知ってる?」
といって、一枚の紙きれを見せてくれた。
「そこには、私も知っている詩がかかれていた。」何年か前に話題になった詩。おかしくてゲラバラ笑ってしまう内容の詩だ。
「いつもね、これをお財布に入れて、毎朝、読んでるの。朝起きて、これを見てクスっと笑って一日始めるのよ。そうすると朝から楽しくいられる。」
「今日は、私は、登記のご説明をしに来ました。でも、中山さんからは、たくさんの人生の知恵を教わったような気がします。楽しく生きる知恵。私もそんな風に生きて行きたいなそう思わせてくれました。お礼を言うのは、私の方です。どうもありがとうございました。どうか、いつまでも、お元気でいて下さいね。」涙が出てきそうなのを堪えながらいう。
中山さんを見送り、ふと気づく。あっ、次の相談があるのだった。涙を流してなどいられないのだ。
こんな感じで3件ほどの相談を受け、時計をみると、時間は、午後1時だった。
終わったー。疲れたけど、とても有意義な時間が過ごせたかな。人って、出会いの数だけ成長できる気がした。
つづく