「ただいまー」と事務所に戻る。事務所のみんなが笑顔で迎えてくれ、一気に緊張がほどける。
その日の夕方
兄に、一連の報告をする。
「お兄さんも、亡くなるときは、家族葬がいい?」
「死なせる気?」
「そういう意味じゃないけど、一応聞いておこうかと思って。」
「そうね~」 返事はなかった。
「2件目は、どんな内容だった?」
「うん。2件目のご相談者は、あまり役に立てなかった。自宅の土地・建物を息子さんと共有にしてるご婦人なんだけど、自分が亡くなっても、先祖代々の不動産だから、息子さんに住んでもらいたいと思って共有にしていたのに、息子さん気が変わって、ご相談者のご婦人が亡くなったら、売却すると言うのだって。どうにかならないかって。アドバイスに困ってしまって。
息子さん現金がほしいのだと思って、息子さんから、息子さんの持分を買い取ることを提案してみたけど、買い取れるほどの持ち合わせがないって。他にもお子さんいるらしいから、みんなとよく相談してくださいって話した。それ以外、方法がないと思った。」
「う~ん。難しいよね。人の気持ちは。」
「よく、司法書士は、不動産を共有名義にするのためらうでしょ?」
「こういうことだよね。今良かれと思ったことが、何年もたつと、事情が変わってくる。 生活環境が変われば、人の気持ちも変わってくるよね。」
「そうだね。だから、安易に、共有名義にしてほしいという依頼人には、こういったリスクを説明することが重要だよね。こういう説明ができるのは、司法書士しかできないと思うから。」
「うん。」
「3件目は?」
「えっと、ご実家の土地・建物が、現在お父さん名義なのだけど、お父さんが亡くなった後、妹がその不動産を相続することに家族みんなの意見が一致しているのだって。だけど、その後、妹が不動産の所有者になった後、その不動産は、妹の相続人に行くでしょ?お父さんは、妹のお子さんの長男に渡したくなくて、妹の長女に引き継いでもらいたいのだって。それで、いいアイデアないか?って」
「私は、お父さんから妹さんへの相続については問題ないとして、その後、相続が発生し、妹さんが相続人になったら、妹さんに、長女へ不動産を渡す旨の遺言を書いてもらうか、今、家族信託という制度があって、不動産を妹さんへ、その後、妹さんの長女へというように、引き継ぐことができる制度がある話をしたよ。信託の説明をするほどの時間はないから、本を参考にして読んでみて、それで興味があったら、ご連絡下さいと言ったよ。」
「いいんじゃないそれで。成長してるじゃん。疲れたでしょ」
「うん。疲れたわ。報告以上。さ、帰ろう!」
「では、お先失礼しまーす」
完