その日の夕方。
兄に今日の報告をする。
「相続登記は、必要書類も全部そろったし、申請書も作ったから、お兄さんチェックおねがい。それと抵当権抹消の件、銀行調べたよ」
「ほう。で?」
「うん。銀行は、平成元年に、本店と商号を変更。その後解散している。」
「銀行の謄本見せて」
「はい。これ」
「で、和花はどうしようと思っているの?」
「うん。謄本を確認するとね、清算人が選任させているでしょ。2人いる。清算人の住所が載っているからまずは2人に手紙を書いてみようと思う。もし、清算人のどちらかでも連絡がとれたら、清算人の方に協力してもらえれば抵当権抹消登記ができるから」
「うん。いいアイディアだと思うよ。ところで、もし清算人の両方と連絡がとれなかったらどうする?
住所移転しているかもしれない。」
ほら、やっぱりつっこんできた。ちゃんと調べてます。
「うん。休眠担保を使うしかないかと思っている。」
「休眠担保は、何個かあったかと思うけど、条文でいうと?」
うん。70条3項前段は、書類がそろわない。70条3項後段は、つかえない。すでに弁済しているから。
だから70条1項2項の公示催告、除権決定でいこうかと思うの。
「除権決定の条文の内容いってみて」
「えっ。うん。登記権利者は、登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、公示催告の申立てをして除権決定を得ることで単独で抵当権を抹消できる。」
「和花、登記義務者の所在が知れないためってあるでしょ。それじゃあ所在が知れないってどういうこと?」
「えっ行方不明とかでどこにいるかわからないとか。連絡取れないとか。」
「うん。そうなんだけどね。今回、登記義務者である抵当権者が個人ならそれでいいと思うんだ。だけど今回の登記義務者である日の出銀行は、法人でしょ?閉鎖登記簿謄本で抵当権者を確認したよね?。」
「うん。そうだけど。」
「閉鎖謄本があるということは、所在不明とはいわないんだ。法人の場合、70条1項2項の除権決定での抹消は、かなり難しい。閉鎖謄本がない法人しか使えないわけだからね。」
「えっ、つまり、日の出銀行は、所在不明ではないから除権決定で抹消できないということ?」
「そう。」
あまかったなぁ。所在不明って具体的にどういうことか、思い浮かばなかった。連絡取れなければ、
所在不明だと思い込んでいた。思い込みって怖い。気を付けないと。 でも、じゃあどうしよう…
「他に考えられることある?」
「訴え提起。判決による単独抹消。私には、もうこれしか思い浮かばないよ」
「訴え提起したとして、どうやって勝訴判決得る?」
「えー。弁済したこと証明するしかないよね。でも、解除証書がないよ。」
「他には?」
「えっほかにもあるの?。」
「……うーん。分からない。」
「時効」
「あっそうか。債権の消滅時効か。かなわないなぁ。お兄さん」
「だけど、まずは、清算人と連絡とってみる。もしかしたらご健在かもしれないから」
「そうだね。清算人と連絡つくといいね」
つづく