次の週の火曜日13時きっかり、早瀬さんはお見えになった。
「お久しぶりです。5年ぶりでしょうか。過日は、本当にお世話になりました。」
「はい。ちょうど5年ぶりです。昨日、以前の手続き資料を見て復習しました(笑)」
「隣にいるのは、妹の和花です。昨年からうちで司法書士として鍛えてます」
「こんにちは。妹の和花と申します。兄ともどもよろしくお願いいたします。」
「さて、今回遺言のご相談ということですが、何か気がかりな事があるのですか」
「はい。わたくしももう70歳になりました。兄が亡くなった時は、大変だったので、自分のような思いを子供たちにしてほしくなくて、遺言をかけばもめ事が減ると思いまして」
「はい。それは、その通りだと思います。」
「相続人が多ければ多いほど、皆さんそれぞれ思い思いのお気持ちとその時々の生活環境がございます。話しがまとまらなければ裁判所にお世話になることもございます。それを考えると、自分亡き後、お子さんたちへ遺言という形でメッセージを残すことは、トラブルを未然に防ぐ効果があるかと思います。」
「はい。私もそう思います。兄の相続の件につづき、私のお友達の間でも相続トラブルをちらほら聞くようになりました。ですので、親族には誰にも知られずに遺言を書きたいと思いまして、信頼できる先生のところにこっそりやってきたのです。」
「遺言を書くことについて、お身内の方には内緒なのですか?」
「もちろん。遺言を書くと言ったら内容を知らせないといけない雰囲気になるのではないかと思って。ですので、書くこと自体が内緒です。」
「そうすると、早瀬さんがお亡くなりになった時に、遺言の存在を知ることが困難になります。」
「先生が、お分りでしょう?」
「はい。私が遺言のお手伝いをしても、遺言執行者になっているのであれば別ですが、その万が一ですが早瀬さんがお亡くなりなったことをどうやって私は知ることができるでしょう。早瀬さんのお子さんが私に知らせてくれない限り、私は、知ることができません。早瀬さん亡き後、遺言の存在を知らず、お子さんたちが遺産分割協議をしてもめてしまうということもありえますよ。」
「あのー、私の遺言を知らずに子供たちが遺産分割協議をしてしまった場合は、どうなるのでしょうか。」
つづく